やけど(ねっしょう)

やけど(熱傷)

はじめに

 やけどは日常生活で最も多いケガの1つです。皮膚に様々な熱源(熱い液体や金属、炎など)が接触することにより障害を生じた状態です。やけどは範囲や深さに応じた治療が必要ですが、受傷直後の応急処置も重要です。ここではやけどの基礎知識と治療法について解説していきます。

1)やけどの基礎知識

Ⅰ.やけどってどんなケガなの?

A. やけどは医学用語では熱傷といい、熱によって皮膚や粘膜に障害が生じる外傷の1つです。皮膚障害の程度は接触する熱源の温度と接触時間によって決まります。非常に高温のものであれば短時間の接触でもやけどになる一方で、44℃~50℃程度の低温のものでも長時間接触しているとやけどになり、これを低温熱傷と呼んでいます。
 熱源としては高温の固体や液体、あるいは直接の炎や爆発による爆風などがあります。また特殊な熱傷としては電流(落雷や高圧線など)による電撃傷や薬品(酸やアルカリ溶液など)による化学熱傷などがあります。
 深いやけどや広範囲のやけどで重症の場合には、全身状態が悪化して命に関わることがありますので、熱傷専門施設での治療が必要となります。また重症でない場合でも適切な治療が行われない場合には、キズに細菌が繁殖するなどして治るのが遅くなると後遺症(キズあとのひきつれや盛り上がりなど)を残すこともあります。やけどをした場合にはできるだけ早期に医療機関で診察を受けることをおすすめします。
Ⅱ.やけどの原因にはどんなものが多いの?

図1 低温熱傷 湯たんぽで受傷

A. やけどの原因として、液体ではヤカンや鍋のお湯、天ぷら油、コーヒーやお茶、味噌汁などの熱い飲み物、カップ麺などが多く報告されています。そのほかに高齢者や小児では高温の浴槽での事故もみられます。また固体としてはストーブやアイロン、ホットプレートなどがあります。直接の炎では調理中の着衣への引火、仏壇のロウソクから着衣への引火、火災によるものなどの報告があります。
 その他お子さんでは花火によるものや、乳幼児では炊飯器やポットの蒸気に手をかざしてしまって受傷することもあります。テーブルの上のカップ麺や飲み物に手をかけてこぼしたり、あるいはテーブルクロスを引っ張ってしまって、これらをこぼして受傷したりするケースも報告されています。小さいお子さんのいる家庭では熱い液体の入った容器はお子さんの手の届かないところに置く、テーブルクロスは使わないなど十分に注意しましょう。
 低温熱傷は下腿に多く、原因としては湯たんぽや電気あんか、電気毛布、使い捨てカイロなどによるものが報告されています。低温熱傷は深いやけどとなりやすく、専門的治療が必要となる場合が多いです(図1)。低温熱傷を予防するためには湯たんぽは寝る前に布団から出す、電気製品は電源を切るなどして、このような器具が長時間同じ部位に触れないように注意しましょう。
Ⅲ.浅いやけどと深いやけどはどうちがうの?
A. やけどの深さは大きく分けるとⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度の3段階に分類されます(表1、図2)。Ⅰ度は表皮まで、Ⅱ度は真皮まで、Ⅲ度は皮下組織まで傷害が及んだものです。Ⅰ度は日焼けと同じように皮膚に赤みが出る程度です(図3)。Ⅰ度熱傷では多くの場合炎症を抑える外用剤などでほとんど後遺症を残さず治ります。Ⅱ度になると水ぶくれができるのが特徴で、ヒリヒリとした痛みを伴います。Ⅱ度熱傷は深さによって更に2つに分けられます。浅いⅡ度熱傷は浅達性Ⅱ度熱傷(図4)、深いⅡ度熱傷は深達性Ⅱ度熱傷(図5)と呼ばれます。部位と範囲にもよりますが、水ぶくれができるようであれば形成外科への受診をお勧めします。Ⅲ度になると皮膚に血の気がなくなり蠟のように白くなったり、炎で受傷した場合には炭のように黒くなったりします(図6)。Ⅲ度になると痛みを感じる神経まで損傷されるので逆に痛くないのが特徴です。Ⅲ度熱傷の場合には皮膚の障害が強く、治るのに時間がかかるため小範囲の場合でも医療機関での治療をおすすめします。一般的に浅達性Ⅱ度熱傷までの浅いやけどであれば軟膏やキズを湿潤状態で保護する創傷被覆剤による治療で後遺症無く治る場合が多いのですが、深達性Ⅱ度熱傷より深いやけどになると治るのに時間がかかり、後遺症を残すこともあります。このため場合によっては手術が必要となります。
 また小児や高齢者、糖尿病などの合併症をお持ちの方は、受傷後経過とともにやけどのキズが深くなる場合があるので、より慎重な管理が必要となります。

表1

熱傷深度皮膚所見色調知覚
Ⅰ度(EB)乾燥紅斑痛み(+)
知覚過敏
浅達性Ⅱ度(SDB)湿潤、水疱(+)薄赤強い痛み
知覚あり
深達性Ⅱ度(DDB)湿潤、水疱(+)やや白色痛み軽度
知覚鈍麻
Ⅲ度(DB)乾燥
硬化
炭化
蠟色
黄色~赤茶色
黒色
無痛

EB :epidermal burn    SDB:superficial dermal burn
DDB:deep dermal burn  DB :deep burn

図2 Ⅰ熱傷深度

図3 Ⅰ度熱傷熱(EB)熱湯で受傷

図4 浅達性Ⅱ度熱傷(SDB)鍋のお湯で受傷

図5 深達性ⅡⅡ度熱傷(DDB)熱湯で受傷

図6 Ⅲ度熱傷(DB)
   熱い塗料で受傷

Ⅳ.やけどの重症度はどうやって判断するの?入院が必要となるのはどの程度?
A. やけどの重症度はやけどの範囲(受傷面積)と部位、やけどの深さ、患者さんの年齢などで総合的に判断します。
 やけどの面積の計算方法には様々のものがありますが、大人では9の法則、小児では5の法則が良く用いられます。9の法則では頭部顔面が9%、両上肢がそれぞれ9%、躯幹前面と後面がそれぞれ18%、両下肢がそれぞれ18%、会陰部1%と計算します。小児に用いる5の法則では9の法則に比べて頭部の割合が多く算出されています。
 重症度の判定にはArtzの重症度分類(表2)が用いられます。成人ではⅡ度熱傷が30%以上、あるいはⅢ度熱傷が10%以上の広範囲熱傷の場合には、重症として熱傷専門施設へ入院治療のうえ輸液などの全身管理が必要になります。さらに特殊部位(顔面・手足・会陰部)のⅡ度・Ⅲ度熱傷、気道熱傷(熱い空気を吸うことでのどや気管がやけどした状態)・電撃傷・化学熱傷などの特殊熱傷があれば、熱傷面積に関わらず重症となり、同様に熱傷専門施設での入院治療が必要です。Ⅱ度熱傷が15~30%、あるいはⅢ度熱傷が2~10%であれば中等症であり、一般病院での入院治療が必要となります。Ⅱ度熱傷15%未満、Ⅲ度熱傷2%未満であれば軽傷として外来治療が可能です。
 小児・高齢者では予備能力が低いため、Ⅱ度熱傷が20%以上、あるいはⅢ度熱傷が5%以上であれば重症、Ⅱ度熱傷が10~20%、あるいはⅢ度熱傷が2~5%であれば中等症、Ⅱ度熱傷が10%未満、あるいはⅢ度熱傷が2%未満であれば軽傷となります。

表2 Artzの重症度分類

重症(専門施設に要入院)中等症(一般病院に要入院)
①Ⅱ度+Ⅲ度 30%TBSA以上
 (小児・高齢者20%TBSA以上)
②Ⅲ度 10%TBSA以上
 (小児・高齢者5%TBSA以上)
③特殊部位のⅡ・Ⅲ度熱傷
 ‥‥顔面・手指・足・会陰部
④特殊な熱傷
 ‥‥気道熱傷、電撃傷、化学熱傷
⑤骨折や外傷の合併による重篤な症例
①Ⅱ度+Ⅲ度 15~30%TBSA
 (小児・高齢者10~20%TBSA)
②Ⅲ度 2~10%TBSA
 (小児・高齢者2~5%TBSA)
軽症(外来治療可)
①Ⅱ度+Ⅲ度 15%TBSA未満
 (小児・高齢者10%TBSA未満)
②Ⅲ度 2%TBSA未満

TBSA: total body surface area(全体表面積)

2)やけどの治療

Ⅰ.やけどしたときの応急処置はどうしたらいいの?
A. やけどを受傷したら直ちに流水で患部を冷やすことが大切です。冷やすことによりやけどが深くなるのを防ぎ、痛みを和らげることができます。部位や範囲にもよりますが、水道水で5分から30分ほどを目安に冷やしましょう。小範囲であれば水道の流水で。広範囲であればお風呂のシャワーで冷やすとよいでしょう。ただし小児や高齢者の広範囲の場合に長時間冷やすと低体温になることがあるので注意が必要です。水ぶくれができている場合にはできるだけ破らいようにして病院に行きましょう。服を脱がせると、その時に水ぶくれを破いてしまう場合があるので服を着たまま水道水で冷やすのがよいでしょう。女性ではストッキングを無理に脱ごうとすると一緒に水ぶくれがはがれてくるので注意が必要です。
 やけどの部位はだんだんに腫れてきますので、指輪などのアクセサリーは早めに外しましょう。
Ⅱ.浅いやけどの治療はどうするの?
A. Ⅰ度・Ⅱ度の浅いやけどの場合には、軟膏や創傷被覆材による治療が行われます。浅いやけどではキズの中に表皮の基となる基底細胞が多く残っているので、ここから表皮の再生(上皮化)が期待できます。このため浅いやけどでは基本的には創面を乾燥させずに適度にしっとりした環境(湿潤環境)にして上皮化による治癒を目指します。この状態を維持するために浸出液の量や創面の状態を観察して軟膏や創傷被覆材を選択します。
 ただしキズに細菌が繁殖する創感染がおこるとやけどのキズが深くなり、治るのに時間がかかります。このため創感染がある場合には創洗浄や抗菌力のある外用剤など、感染対策のための治療を選択していきます。
 Ⅰ度や浅いⅡ度までのやけどが順調に治ると後遺症を残さない場合がほとんどです。
Ⅲ.深いやけどの治療はどうするの?手術は必要なの?
A. 深いⅡ度のやけどの場合にはキズの中に上皮化の基となる細胞が少なくなってしまい、外用剤や創傷被覆材の治療のみでは治癒に時間がかかり、後遺症を残す可能性が高くなります。またⅢ度熱傷となってしまった皮膚は血流が無くなり、皮膚が死んでしまった状態(壊死)になっています。壊死した皮膚をそのまま残しておくと細菌の感染源となる恐れがあるので、基本的には切除します。これをデブリードマンといいます。デブリードマンした部分は皮膚が無くなった状態になります。範囲が狭ければ周りの皮膚からの上皮化での治癒が期待できますが、広範囲の場合には治るのに時間がかかるうえに、治癒後の後遺症の可能性が高くなります。このような場合には身体の他の部分から皮膚を移植する手術(植皮術)が必要となります。植皮術が必要となると基本的には入院治療が必要となります。植皮術には様々な方法がありますが、やけどの範囲と,部位により適切な方法を選択します。
Ⅳ.やけどの後遺症にはどんなものがあるの?
A. 浅いやけどの後遺症としては色素沈着などの色素異常が見られます。時間の経過とともに良くなる場合が多いですが、色素沈着予防に紫外線対策が有用です。深いやけどの後遺症としてはキズあとが盛り上がる肥厚性瘢痕やケロイドがあります。この肥厚性瘢痕やケロイドが関節に生じると関節が伸ばせなくなるようなひきつれ(瘢痕拘縮)を起こすことがあります。特に小児の場合にはやけどのキズあとが他の部位の成長について行けずに徐々にひきつれが出てくることがあります。肥厚性瘢痕やケロイドには外用剤や圧迫療法などが行われますが、改善傾向が乏しい場合にはひきつれを解除して皮膚を追加するような手術が必要となります。
 またこのようなキズあとのひきつれが何十年も続いていると、やけどのキズあとから皮膚がんが生じることがあり注意が必要です。

文責:
弘前大学形成外科
 教授 漆舘 聡志

弘前大学形成外科 教授 漆舘 聡志

2020年2月1日掲載