きりきず

切り傷

 皮膚が鋭利なものにぶつかってしまうと切り傷ができることがあります。

図1

 皮膚の厚みのごく浅い「表皮」だけが切れた場合は(図1)、出血があったとしても、通常は、しばらく圧迫していると止まりますし、縫合する必要はありませんが、屋外でのけがや、汚い物との接触でけがをした場合は、縫合が不要なキズであっても、感染(化膿)の危険がありますので、生理食塩水か、または水道水でよく洗浄して、抗生剤入のワセリン基剤の軟膏をうすく塗ります。あきらかな汚染創(動物の引っ掻き傷など)である場合は、さらに抗生剤を内服します。

 屋内での受傷で、比較的清潔なキズ(未使用の刃物や紙など)の場合は、切れて1~2ミリひらいた表皮を、医療用のテープでよせながら固定してしまうこともあります。化膿しないでそのままうまく表皮が癒合すれば、キズあとがほとんどわからないくらいにきれいになおることも多いです。塗り薬で治した場合も、表皮迄の切り傷はきれいになおることがほとんどです。

図2


図3

 一方、皮膚の土台である真皮(しんぴ)成分が露出するくらいの切り傷になると、下の白い真皮がキズからのぞいて、キズもやや開き気味になります(図2)。皮膚全層が完全にきれてしまうと皮下脂肪がみえてきますし、キズも大きく開きます(図3)。最終的にキズあとがのこりやすいですが、縫合した方がきれいになおる場合が多いので、形成外科を受診しましょう。化膿の危険性は、先ほどと同じで、汚染の可能性がある場合は、しっかり洗浄して抗生剤内服と抗生剤軟膏を塗布します。受傷して2~3日経過して、すでに化膿している場合は、縫合するとかえって化膿がひどくなるので、縫合できるかどうかは、汚染されていなくてすぐに受診した場合にかぎります。なお、比較的清潔なキズで、血流の良い小児の顔などでは、真皮まで切れてしまった場合でも、局所麻酔ができるかどうかを考えて、縫合する以外の方法、たとえばテープ固定や医療用接着剤などを検討し、一番よい方法を行います。得られるキズあとに大きな差がなさそうであれば、局所麻酔と縫合よりも、無麻酔でテープ固定を行う場合もあります。ただし、血を止めたり、深いキズの洗浄を行うだけでも麻酔が必要なこともあるので、キズの状態をみて診察にあたった医師が判断します。

 皮膚の土台である真皮成分が、完全に切りはなれてしまっている場合、切り傷は大きく紡錘形にひらいてしまっていて、皮下脂肪(黄色)や、筋肉(赤色)、骨(白色)が見えてしまう場合もあります。長さにもよりますが、出血の量は多くなり、この場合は、きちんと縫合しないと開いたキズの状態が長く続き、日常生活に支障がでてしまいます。きちんと医療機関を受診し、皮膚の下を走る神経の損傷による知覚麻痺や、腱の切断による指の屈伸の障害、血管の損傷による出血と指先の循環障害(指先が白い)などの所見がないかどうか診察してもらい、局所麻酔ないし全身麻酔で、損傷した組織を適切に縫合してもらってください。通常、麻酔した後は、キズの中を洗浄し、土砂などの異物がないかを確認した後、電気メスなどで出血している血管を止血処置して、奥から順に縫合していきます。真皮縫合といって、皮膚をつなぐ糸を、なかに埋め込むようにして縫合する場合があります。これらの糸は抜糸しないで体内にのこします(吸収糸を用いることが多く、ばらつきがありますが、体内にあれば、およそ2~3ヶ月前後で吸収されます。)抜糸しなくてはならない糸は、表皮をよせるために外側にみえるかたちで縫合する糸で、約1週間から10日、頭足底手掌では2週間で抜糸します。

経過について

 縫合した場合、外側にみえる糸は、通常1~2週間で抜糸します。抜糸の時期は縫合した医師にご確認ください。遅すぎる抜糸は、キズあとの外にさらに縫合糸の貫通した穴のようなキズあとがのこることがあるので、抜糸が適切な時期になされることが大事です。キズあとはそのあと一時的に赤くなったり固くなったりすることが多いですが、最初の1~2か月をすぎたころから普通はゆっくり赤みと固さが改善していきます。

形成外科を知っていますか?

 形成外科医はキズあとが目立たなくなるような特別な皮膚の縫い方を習得しているのです。使用する手術器具や糸、皮膚を縫う技術などすべてで、他の外科とは違う形成外科特有のエッセンスがあります。キズをきれいに治すには、形成外科の手術だけではなく、手術前・後の治療も大変重要です。キズをきれいにする薬を塗ったり、テープで圧迫したり、手術後の安静などが必要で、それらは患者さんの理解と協力がなければできません。良い結果を得るために、このような手術前・後の適切な処置や指導も形成外科医が行います。

文責:
愛知医科大学形成外科
 教授 古川 洋志

愛知医科大学形成外科 特任教授  古川 洋志

2020年2月1日掲載