そうしょうげかりょういきにおけるさいせいいりょうについて

創傷外科領域における再生医療について

創傷外科の分野では、ケガや病気で傷んだ皮膚や組織を修復するための新しい治療法「再生医療」が注目されています。ここでは、再生医療の基本や日本で受けられる治療法についてわかりやすく説明します。

① 再生医療とは?

再生医療は、病気やケガで損なわれた組織や臓器の機能を回復させるために、人間の体が本来持つ「再生する力」を利用する医療技術です。この治療法では、細胞や組織などを損傷部分に移植することで修復・再生を促します。

主な方法:

1)細胞を使う治療:患者さん自身の血液や脂肪から取り出した細胞を培養し組織損傷部位に移植します。


2)成長因子を使う治療:キズを治すために必要なタンパク質(成長因子)を直接患部に届けます。

② 保険で受けられる再生医療

1)自家培養表皮ジェイス®

ジェイス®は、日本初の再生医療等製品として2007年に承認され、2009年に保険適用された自家培養表皮です。患者自身の皮膚組織を原材料として作製された表皮細胞シートであり、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングによって製造されています。
移植されたジェイスは通常1週間程度で生着し、2~5年以内に正常皮膚に近い形態が構築されることが期待されています。

1. 重症熱傷

  • 適応となる熱傷は、深達性Ⅱ度(真皮深部まで達した熱傷)およびⅢ度(真皮まで完全に焼失した熱傷)の合計面積が体表面積の30%以上となる広範囲熱傷。
  • 自家植皮が困難な場合に使用され、移植された表皮細胞が生着することで創面が上皮化し、速やかに創閉鎖が行われます。

2. 表皮水疱症

  • 栄養障害型および接合部型表皮水疱症による難治性または再発性のびらん・潰瘍部への適応が追加されています。ジェイス®を移植することで上皮化を促進し、感染防止や疼痛軽減など患者の症状改善が期待されています。

3. 先天性巨大色素性母斑

  • 母斑切除部への移植により治療が可能。少量の組織採取から広範囲の治療を行えるため、患者負担を軽減します。

使用上の注意点

  • ジェイス®は真皮に生着するため、筋膜や脂肪層には生着が期待できません。そのため、真皮欠損部には同種皮膚や人工真皮などによる再構築後に移植する必要があります。
  • 生着を阻害する要因として感染や炎症、物理的刺激などが挙げられるため、移植部位の管理が重要です。

ジェイス®は重症熱傷や難治性潰瘍など、従来の治療法では対応が難しい疾患に対して新たな選択肢を提供する再生医療製品です。患者自身の細胞を使用するオーダーメイド製品であり、安全性と有効性が担保されています。治療をご検討の場合は専門医と十分な相談を行うことをおすすめします。

2)PRP療法(多血小板血漿療法)

PRP療法とは、血液中の血小板を濃縮した「多血小板血漿(Platelet Rich Plasma)」を患部に注射することで、組織修復や炎症抑制を促進し、自然治癒力を高める治療法です。患者さん自身の血液から「血小板」を濃縮した液体(PRP)を難治性潰瘍に注射する治療法です。血小板に含まれる成長因子が、キズの治りを早めます。難治性潰瘍に対しては保険が適応されていますので、かかりつけ医にご相談ください。

③ その他の創傷外科領域の再生医療は研究、開発段階です。臨床研究や治験が実施されています

日本では2014年に「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が制定され、再生医療の関する研究や治療が本法律下で実施されるようになり、安全性が強化されました。詳細は厚労省のホームページをご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000679801.pdf

<治療を受ける際のポイント>

  • 再生医療は「魔法の治療」ではなく、基本となる潰瘍の治療(感染予防・血行改善)が重要です。既存治療をしっかりと行い専門医の指示をお守りいただき、それでも治らない場合に検討されます。
  • 治療法はキズの状態や原因によって異なるため、専門医とよく相談してください。
  • 保険適用の有無は医療機関で確認が必要です。保険適応にない再生医療は再生医療安全性確保法のもと実施されているため、それが受けられるかは医療機関にご確認ください。

文責:
順天堂大学大学院医学研究科
再生医学/形成再建外科学
 教授 田中 里佳

順天堂大学大学院医学研究科 教授 田中 里佳

2025年06月02日掲載